大阪府高等学校情報教育研究会特別合同専門委員会

先生のためのネットワークリテラシー講座

講師:有賀妙子(京都芸術短期大学 講師)
吉田智子(京都ノートルダム女子大学 講師)
主催:大阪府高等学校情報教育研究会
日付:200034


はじめに

 有賀 ご紹介をいただきました有賀と申します。お話を始める前に、簡単に私たち
の背景について自己紹介いたします。
 私は元々、コンピュータ関係の会社でソフトウエアの開発をしていましたが、
7
年ほど前から、大学、専門学校でプログラミングを教えるようになり、今も
C
言語、 Java言語などを使ってプログラミング教育をしています。そのなかで、
3
年ほど前からごく普通にインターネット、すなわちインターネットを使う、
Web
ページを見る、 作るということが、大学、専門学校のなかで日常的に行な
われるようになりました。 ただ、専門外の講師が、とりあえず操作を教えて
るようなことが多く、内容にばらつきがあると感じていました。これでは統一
された、ある基準に達した内容にまではいかないのではないか、まずいよう
な気がすると思った私は、吉田先生と共に研究を始め、ネットワークリテラ
シーを教えるカリキュラムを一冊の本にまとめました。それが今日、皆さん
にお話をする機会をいただいた経緯でございます。

 吉田 私はコンピュータ関係の会社勤めの後、文章を書くことを仕事にし
たいと思い、ここ6年ほどテクニカルライターの仕事をしております。ご存知
の方は少ないかもしれませんが、UNIXというOSを使う人のための月刊誌
UNIX USER』誌に、1995年から「ルート訪問記」という連載をしています。
その関係でインターネットに詳しい人と出会うことが多かったのですが、
そのときに、インターネットの技術にすごく詳しいことと、そのことを伝えた
り教育したりすることは別物だと気付くようになりました。つまり、
すごく詳しいからうまく教えられるわけではない、という感じです。
それなら、技術に劣等感を持っていた私にも出る幕があるんじゃないか、
こういうふうに教えたら相手がわかってくれるというプレゼンテーションを
考えるのは面白そうだと思っていたところへ、3年ほど前、有賀先生から
「教育の教材を作ってみよう」という話をいただいたわけです。

  
先ほど、共同研究と言われましたが、私は有賀先生が言われることに対して、「そ
れって、こういうふうにしたらいいんと違うかな」と、ポロポロと言っていたに過ぎ
ません。有賀先生が、私がポロポロと言っていることが役に立っていると言ってく
ださるので、嬉しくて3年間引っ付いてきたという感じです。
 それでは『インターネット講座』を教科書にしてお話を始めたいと思いますが、そ
の前に、私たちがどうのように考えてこの教科書をまとめていったのかということに
ついて、簡単に説明をしていきます。

ネットワークリテラシーを学ぶ内容と学習の内容

 ネットワークリテラシー教育の目的
 5年前、10年前のインターネットが流行る前のことを想定してください。まずコン
ピュータの動作の基本を教える教科があり、次にはコンピュータを使うためのスキル
を教える教科がありました。ファイル管理、ワープロ・表計算アプリケーション、プ
ログラミングといった教科がそれです。そこに、インターネットも必要だと考える先
生が、先生本人の趣味・興味によってインターネット関係の教科を次々に加えていき
ました。その加えたものを含めて「情報リテラシー教育」という括りにしていたので
すが、ゴチャゴチャのままでは教える側も教えられる側もポイントがずれてしまいま
す。そこで私たちは、インターネット関連の教育をひとつの独立した科目にしてはど
うか、半年で2単位、1年で4単位もらえるという程度の独立した教科にしてはどうか
と考えたのです。
 つまり、それまでは情報リテラシーのなかに、計算機入門であったり、アプリケー
ションの演習であったり、メールの読み書きとWeb検索といったものがごちゃ混ぜに
なっていたのですが、そこからインターネット関連のものだけを取り出し、独立した
教科として扱うことによって、最終的にはネットワークを介した問題解決力を学生に
身に付けさせようと考えたわけです。

 ネットワークの理解がインターネットの正しく便利な活用を促進する
 インターネットの利用は、車の運転に例えるとわかりやすいと思います。車を運転
するには、まず免許証が必要になります。その免許証をもらうには、まず交通ルール
の学習をし、学科試験に合格しなければなりません。ここに相当するものが「ネット
ワークの理解」です。
 同時に、車の運転操作も覚えていかなければなりません。車の運転操作に相当する
ものが、プログラミングであったり、クリックの操作、起動の手順といった「コンピ
ュータの操作」です。
 交通ルールを学習し、車の運転操作をマスターすれば免許証を取得できます。車を
自由に乗りまわし、便利に使うことができるわけです。ここに「インターネットの活
用」が相当します。ところが、車を乗りまわすようになれば、危険な面もたくさん出
てきます。いくら交通ルールを守っても交通事故が起こってしまうように、長所も短
所もあるわけです。インターネットもまったく同じです。
 この「コンピュータの操作」「ネットワークの理解」「インターネットの活用」の
三つの内、どれが一番重要でしょうか。単なるコンピュータ操作だけなら、5歳、
10
歳の子供たちは案外簡単にこなしてしまうかもしれません。クリックすれば何かが
起こる。子供たちにとっては、それは遊びの延長でしかありませんから。インターネ
ットの活用についても、そう難しいものではないはずです。調べたいことがあるなら
図書館に行こうというふうに、私たちは情報を得る手段に対する基本的な知識を持っ
ています。その手段のひとつとしてインターネットがあるわけですから、少し慣れれ
ばすぐに活用できると思います。では、インターネット社会の理解、ネットワーク技
術の理解についてはどうでしょうか。たとえば、電子メールはどういう仕組みで届い
ているのかということを理解したり、インターネット社会の仕組みを理解すれば、イ
ンターネットをより活用できるはずです。ですから、私たちはこの「ネットワークの
理解」を一番重要なものとして考えているのです。
 このように車に例えて説明すれば、インターネット教育、インターネット利用に慣
れていない先生方も、なぜ学校でインターネットの教育をしなければならないのか、
ということを理解してくれると思います。

電子メールの仕組みとコミュニケーション

 インターネットの仕組み、電子メールで効果的なコミュニケーションをするための
基礎知識、Webページでの情報収集とそのページの評価、Webページの制作を軸にした
ものをネットワークリテラシーと呼び、これを学習することによって、単に使えるよ
うになったというだけではなく、自ら情報を活用する力や問題解決力が付けられるよ
うにしよう。これが『インターネット講座』という教科書を作るにあたっての位置付
けであり、本書の目的になります。
 本書の4頁をご覧ください。「ネットワークリテラシー学習の内容」として今申し
上げたことが載っていますが、今日はそのなかから、「電子メールでのコミュニケー
ション」と「Webページを利用した情報収集」の二つに関してご説明をいたします。

 明確、明瞭な文章で相手に意思を伝える
 電子メールを使い始めた頃は、たとえば「課題のファイルが送れません。困ってい
ます。どうしたら良いでしょう」というように、不明確な文章を書きがちになりま
す。メールでのコミュニケーションは、相手から送られてきた文章だけで相手の状況
を判断し、答えてあげなければなりません。ですから、送られてきたメールの内容が
不明確であった場合には、「それはどういうことなの?」「どういうことで困ってい
るの?」と何回も訊かなければ答えることができません。もちろん、メールのやり取
りをしているうちに、それは経験として自然に学べることではありますが、それでは
教育とは言えません。
 そこで私たちは、不明確なメールを学生たちに書かせないために、チェックリスト
でチェックしたメールを送ってもらうようにしました。本書26頁と27頁に、そのチェ
ックリストが載っていますので、皆さんも授業のときに活用されてはどうでしょう
か。

 項目の意味することを理解する(チェックリストの活用)
 チェックリストにチェックをしていくのは大学生でも好きですから、多分高校生も
大好きだと思います。しかし、私の教えている学生にも時々、深く考えずに丸印を入
れている学生がいたりします。
 このチェックリストはマルを付けていくことに意味があるのではなく、考えること
に意味があるのです。じっくり読めばわかっていただけると思いますが、たとえば
1行が英数字で70文字、日本語で35文字以内になっているか」という項目がありま
す。学生たちに「これにはどういう意味があると思いますか?」と訊くと、大抵は
「よくわからない」と返事をします。そこで改めて、
・日本語を表現する全角文字は半角の英文字(1バイト)の二つ分を使って表示して
いる。従って、英文字で70文字以内が日本語の全角文字35文字以内になる。
1行を短めにしなければ、相手側では切れて表示されてしまう。
・改行マークを入れなければ、文字化けが起こったりする。
 といったことを理解してもらうのです。つまり、このチェックリストの質問に答え
ることが、技術的なことも勉強できるようになっているわけです。
 また、添付ファイルについても詳しく触れています。気軽に添付ファイルを送って
しまう場合もあると思いますが、電話回線を使っている場合には「重いファイルで
困ったな」ということを経験されたことがあると思います。ですから、このチェック
リストには「相手の許可を得た上で送っているか」という項目も設けています。真剣
にチェックリストに取り組む学生が「添付ファイルを相手の許可を得ずに送るのは、
なぜダメなの?」と聞いてくるわけです。そのときに改めて、たとえばワード文書の
添付ファイルを送れば、相手もワードの同じバージョンのものを持っていなければ見
ることができない、という話をしてあげるわけです。
 大学生でも、電子メールの読み書きができるかと聞けば、大抵の学生は「できる」
と答えます。ですが、このチェックリストの一つひとつを詰めていけば、そこまで深
く考えていなかった、自己満足していたに過ぎなかったということがわかります。
 特に、このチェックリストで強調しているのはメーリングリストへの配慮です。メ
ーリングリストは多くの人にメールが届きますから、頼まれてもいないのにメーリン
グリストで添付ファイルを送ってしまえば、困る人がたくさん出てきます。あるい
は、メーリングリストのなかで、自分が使う用語が理解してもらえるのかどうかとい
うこともあります。高校生の間ではとか、仲間内では使われているけれども、それ以
外の人には理解できないような用語もあります。そういったことまでチェックするよ
うになっていますから、学生たちには「このチェックリストでチェックしてから電子
メールを送るように」と言っています。

Web
の情報収集

 検索エンジンを使って目的のWebページを見付け出す
 Webでの情報収集は、大きな海からダイヤモンドを探し出すようなものだと言われ
ているように、なかなか目的とする情報を見付け出すことはできません。あらかじめ
分類されたものの中から探し出す、図書館のようなわけにはいかないのです。そこ
で、「検索エンジン」をどのように使っていくかということがポイントになるわけで
すが、ひと口に検索エンジンと言っても、ディレクトリ系を使うのか、全文検索系を
使うのか、どういったときにどちらを使えばいいのか、目的によって使い方は変わっ
てきます。それについては、本書の3章「Webページでの情報収集」に書きました。
しかし、単にその答えを教えたのでは教育になりません。訓練によって実感させる
ことを、私たちは目標にしています。
 一般的な訓練として、「WebからAという情報を探してください」ということをよく
耳にしますが、私たちは「このページのURLを見付けましょう」という訓練から始め
ます。たとえば、「チューリップの上手な栽培の手引き」というページを探し出すと
きに、そのページのURLをクラスの中で誰が一番早く見付けることができるのか、
みんなで競争させるわけです。
 少し慣れてくれば、全文検索の場合には用語を入れればサーチしてくれるというこ
とがわかってきますから、速い時間で見付けることができます。しかし慣れていなけ
れば、どのキーワードを入れれば「チューリップの上手な栽培の手引き」というペー
ジを発見できるか、なかなかわからないものです。
 たとえばGooという全文検索系の検索エンジンに「チューリップ」というキーワー
ドを打ち込み、検索をします。去年秋の段階では13057件ものヒットがありまし
た。そこで、「チューリップ」というキーワードのあとに「球根」「栽培」といった
キーワードを打ち込み、絞り込み検索してみます。しかし、「チューリップ」のあと
に「の」という助詞を使ってつなげるようなキーワードでは、それほど絞り込むこと
はできません。ところが、「手引き」「寒地」といったキーワードで絞り込み検索を
すると、極端に絞られ、33件のヒットになります。そこまで絞り込めば、リストに挙
がったページをひとつずつ見ていくことができます。
 授業の場合には、「チューリップ」というキーワードでヒットした検索結果の件数
を少しずつ減らしていきましょうという形を使ったり、極端に減らしていきましょう
という形を使ったりして、誰が一番先に「チューリップの上手な栽培の手引き」のペ
ージを見付けることができるのかを競えば、なかなか盛り上がったりします。

 間違った情報もあることを認識する
 URLで調べていくものについては、教科書の70頁に一部の例を載せていますが、こ
のなかにある「1952年にノーベル平和賞を受賞した人」という項目に注目してくださ
い。このURLを検索していく過程で、この問題の正解であるジュバイツァー
(Schweitzer, Albert)
が、「1954年にノーベル平和賞を受賞した人」と書かれている
Web
ページにヒットすることがあります。正しくは1952年ですから、間違った情報が載
せられているわけです。Webには検閲なしに公開できるという特徴もありますから、
若干の経験を持った大人なら、さらりと「間違った情報が出ていてもしようがない
じゃないか」と流せると思いますが、Webはすごいんだ、情報がたくさん得られるんだ
ということだけで学生や生徒たちが使うようになれば、Webページには間違った情報も
あるということが受け入れられなくなる危険性もあります。ですから、Web検索を学習
する場合には、単に検索をするだけではなく、間違った情報もあるのだということを具
体的に指し示した例も組み入れていったほうがいいと思います。

 Web検索は情報収集の一手段に過ぎない
 このことに関連しますが、パソコンの前で情報がどんどん得られるというクセを付
けてしまうと、パソコンで探せないことは何をしても探せないんだ、と短絡的に考え
がちです。実際、そういう学生は面白いほどたくさんいます。図書館に行けばわかる
かもしれないし、百科事典に載っているかもしれないのに、Webページにないんだか
ら探してもムダだというふうに、情報源を限定してしまう傾向が見受けられるのは少
し危険だと思います。インターネット、図書館、百科事典、新聞等々、情報を得る手
段はいろいろあります。Webでの情報収集はそのひとつに過ぎないのですから。
 教科書の69頁に、Webページ、百科事典、週刊誌のそれぞれを「情報の信頼性」
「情報の鮮度」「情報の検索性」の三つから比較する演習を載せていますので、教材
としてご活用いただければ結構かと思います。


Web
ページの批判的閲覧

 有賀 Webページの内容を評価できる力を持つことは、ネットワークを使った情報
活用に欠かすことはできません。Webページに書いてあったからこうなんだ、と鵜呑
みにするのではなく、情報の質を判断する力が必要になるわけです。その力を養うた
めに、このカリキュラムでは評価基準となるスタンダードを決め、それに基づいたチ
ェックリストを用意し、実際に存在するWebページを評価しています。
 教科書の7475頁を参照ください。いろいろなチェック項目が並んでいますが、質
問の一つひとつがWebページを評価することになぜつながるのか、Webページの信頼
性、精度、目的とどう関わっているのか、ということを確認しながら判断をしていき
ます。たとえば、「デザイン/構成」の欄に「視覚的効果は情報を補強するものにな
っているか?」というチェック項目がありますが、色合いがよく、きれいな絵が出て
いるけれども、それはWebページの目的に合ったものなのか、内容の質の高さとどう
関係しているのかということを、ここで一旦とどまって考えるわけです。
 あるいは「環境」という欄があります。印刷物の場合は、筆者と読者が目にするも
のはまったく同じものです。ところがWebページでは、見る人の環境、コンピュータ
の環境によって、表示される文字の大きさも違いますし、画面に表示される行数も変
わってきます。または、イメージ(写真)を見ることができない場合もあります。そ
ういった環境の違いを考慮して、どんな環境でも筆者が伝えたいと思う情報を伝えら
れているのか、いないのか。この欄では、前者をよいページ、質の高いページとして
チェックしていきます。
 チェックリストでは、「このページは特定の環境を前提に作られているか」という
質問になっていますが、あとの項目はすべてチェックをしている人(学生)のコンピ
ュータの環境を訊いているだけです。「このページは特定の環境を前提に作られてい
るか」というだけでは、マシンの環境、特にブラウザーでWebページを見る環境につ
いて認識することができません。ですから、環境を評価する前に、五つの質問を別に
用意しているわけです。

 ところで、皆さまの大阪府高等学校情報教育研究会でもHPを作っておられます。皆
さま、当然ご覧になっていると思いますが、教科書の74頁、75頁のチェックリストと
照らし合わせて、何か思うことはありませんか。

 参加者 環境によって一部見ることができない部分があります。

 吉田 貧弱な環境で見る人のことも考えて、Javaを使って表示させるものは奥まっ
たところに置いていただいて、表紙だけはサッと出るようにしてほしいと思いました。

 有賀 環境の整った学校では表示速度が早くて、あまりよくない環境の学校では表
示速度が遅くなる。同じページであっても、自分が使うコンピュータの環境によって
随分と評価が変わってくるものです。ですから、吉田先生が言われたような視点を忘
れないでほしいと思います。
 最後に「あなたの主観」という欄があります。これはWebページに対する評価その
ものではありませんが、編集者の立場に立って意見を言ってみようということを意図
しています。要するに、もしあなたが編集者だったら、筆者に対して言ってみたいこ
とを所感として書かせるわけです。

 実際にこのチェックシートを使った演習は教科書の80頁に載っていますが、ここで
は別の演習をご紹介します。
 まず、あるサイト、あるホームページを見ます。そしてこのチェックシートを使っ
て批判的評価をしたあと、そのWebページのなかでより具体的な情報を探します。た
とえば、高島屋のホームページから、次の水曜日に京都店が営業しているかどうか、
衆議院のホームページから、一番最近の予算委員会で誰が発言をしたのかということ
を、情報検索エンジンを使わずに、Webページのなかにあるリンクを順番に辿りなが
ら探していくのです。つまり、具体的な目的をもってホームページにアクセスしたと
いう状況を仮定して、ナビゲーション、リンクがうまく貼られているかどうか、ロー
ド時間はどうなのかといったことを確認し、ページの構成、情報がよく分類されて
いて、取り出しやすくなっているかどうかを評価していくわけです。
 単にチェックシートを使ってページを見るだけだと、どうしても漫然とWeb
ページを見てしまう可能性があります。ですから、こういった具体的なこと
をして、学生たちがお互いに 「どうやって見付けたか」「簡単に見付けるこ
とができたか」ということを話し合っ ていく必要が出てくるのです。
 たとえば高島屋のホームページの場合、京都店の案内に辿り着くまで厄介です。シ
ョートカットが用意されているのですが、それが非常にわかりにくくなっているから
です。または、SWATCHという時計メーカーのHPのトップページは、動画だけで何も情
報が出ていません。スキップするボタンがあるだけです。このボタンが非常にいい感
じだなと思いながらクリックしても、なかなか目的のものは見付かりません。
 具体的な情報を提供する力がどのくらいあるのか、そして何が情報提供力をアップ
させているのか、あるいはダウンさせているのかということを、この演習によって学
生たちに考えさせるわけですが、さらにその後、もう一度改めてチェックシートの評
価結果を見直し、最初と変わったのか、同じだったのか見ていきます。具体的には、
クラスをいくつかのグループに分けて、最初にチェックシートに記入したグループと
は違うグループが具体的な情報を探します。そのグループは、最初にチェックしたグ
ループに対して悪かった点、違った点を指摘した上で、もう一度最初の結果を見直し
ていきます。こういったグループワークもしていくことができると思います。

Web
ページの制作

 Webページの制作をする演習には、非常に幅広い目的があります。Webページの制作
には、企画調査調査情報の分析・分類→HTML文書の作成テストというプロセス
がありますが、このプロセスを通して、たとえば企画する力、調査する力、設計する
力を学んでいきます。ですから、ここにはWebページ制作に限らず、他のところでも
学べる内容がたくさんあるわけです。ここでは、ネットワークリテラシーの観点から
何が重要なのかということを考えてみます。
 「ページの全体デザインを考える」「ページデザインをする」「テストする」という
三つが情報リテラシーでは特に大切だと思います。もちろん、企画力も調査力も大切
ですが、これらは別の科目でもできることですから、今日は三つのなかでも、特に設
計部分(デザイン)について触れていきます。
 WebページはHTML文書で作成していきますが、私の授業では、Webページのコンポー
ザー、ビルダーなどは使いません。メモ帳などのテキストエディターを使って、学生
たちに直接HTMLを書かせています。それによって情報の構造をハッキリ認識させ、認
知させようとしているわけです。ただし、Webコンポーザー、ビルダーなどの道具を
使おうとも、テキストエディターでHTMLを直接書こうとも、「デザイン」「テスト」
は共通に存在する大切な部分ですから、ここでは「デザイン」と「テスト」に重点を
置いてお話をしていきます。

 企画は、テーマ、目的、ユーザー、伝える内容を文章化することから
 Webページを構成する要素は、「調べた情報をどのように分類し、どのような大き
さに分けて見せるのか」「どのようなリンクを貼って読者を導いていくのか」といっ
た大きなものから、教科書の135頁の「HTML文書作成におけるチェックリスト」にあ
るように、一つひとつのページのなかにもたくさんの要素があります。これらを一つ
ひとつ決めていくわけですが、そのときにはユーザー(読者)中心の視点が大事にな
ります。
 今日はプロセスとして「企画」の説明はしませんが、企画をするときには、テーマ
を明らかにする、ページの目的を明らかにする、読者を明らかにする、伝えたい内容
を明文化することが非常に大切になります。アイデアを練り、実際にスケジュールを
立てる助けとなるワークシートを教科書88頁、89頁に載せていますので、参照くださ
い。特に最初の4項目、テーマ、目的、ユーザー、伝えたい内容をきちんと文章化し
ておけば、ページのデザインを決めていくとき、ユー ザー中心の視点というものが
自ずと見えてくるはずです。

 サイトの構造を考える
 本当にユーザー中心の視点になっているのか、読者のことを考えたデザイン、設計
がなされているのかを評価するときに、二つの大きな柱があります。ひとつは、よく
考えて構成され、よく練られた構造で情報が提供されているのか。もうひとつは、相
互作用を持つWebページとして使いやすいものになっているのか。この二つの観点に
基づいて、デザイン、設計がなされていることが、ユーザ中心の視点という点で大事
になってくるわけです。
 よく錬られた構造で情報が提供されているのかという柱については、教科書の97
を参照ください。サイト構成の例として、直線的な構造、階層構造、格子
状構造、網状構造の4例を挙げています。ここではわかりやすく一般的な階層構造を
例に説明をしていきますが、階層構造で情報を提供していくにしても、それはどのく
らいの深さにするのかということを決めなければなりません。ひとつのメニューの下
にすべてのページがぶら下がる構造になるのか、大中小の項目に分け、階層を深
く伸ばしていくのかといったことを、ここで決めるわけです。あまり深くても、
浅すぎてもユーザーは見にくいものです。

 リンクを考える
 構成が決まれば、ページからページにユーザーをどのように導いていけばよいのか
を決めていきます。すなわち、リンク(ナビゲーション)を決めていくわけです。こ
の場合、明確な理由を持ったナビゲーションを提供するように考えていかなければな
りません。言い換えれば、ユーザーがページを見る目的に従ってリンクを貼るように
考えていくことが大事になってくるわけです。
 同時に、トップページへのリンク、または重要なページへのリンクを貼るこ
とも、ユーザ中心の視点では欠かすことはできません。たとえば階層構造を
とり、大項目のページのなかにあるメニューをクリックすると、中項目のメ
ニューに移り、そのメニ ューをクリックすると、さらに小項目のメニューへ
とリンクされていたとします。そして最下層レベルのページは直線構造になっ
ていた場合、最下層レベルのページから直接、上位層のメニューに戻れるよう
なリンクを貼るわけです。ひとつずつ戻らなければ大項目のメニュー、ある
いはトップページに戻れないような構造では、ユーザー中心の視点で作られた
サイト とは言えません。

 トップページを考える
 リンクが決まれば、次にトップページの設計を考えます。
 情報提供を目的としたトップページの場合、ページの目的を説明する、大項
目への リンクを並べて内容の一覧を示す、ページの視覚的イメージの確立を
するといった役割があります。たとえばネットスケープ社のWebページでは、
すべてのページの上部に大項目へリンクを示すメニューバーが貼られています。
そのために、「私は今ネットスケープのサイトのなかにいるんだ」と安心でき
るわけです。このように、これがあればこのページというふうに、自分の作っ
たページに視覚的な印象を確立するのもトップページの重要 な役割なのです。
 さらに、トップページには「何を目的にしたサイトか」「誰が書いたページか」
「どのような情報が提供されているか」ということを明確に示す必要があります。先
ほど、「Webページを批判的に読むためのチェックリスト」(教科書74頁、75頁)の
ところで、目的がわかるか、誰が筆者なのかをチェックする項目について説明しまし
たが、作るときにも同じことが言えるわけです。

 統一感、視覚イメージ、レイアウトの一貫性を意識してページをデザインする
 個々のページのデザインを決めるときには、シンプルで統一感のあるページ
になる ように考えます。どのページも同じように見えることがポイントです
し、全体的に平坦なものよりは、視覚的に訴えるコントラストを意識したほう
が、ユーザーに読む気持ちを起こさせます。また、写真やイメージをバラバラ
に貼り付けるのではなく、センターで揃える、あるいは左に揃えるというよう
に、レイアウトにも一貫性があることが望ましいと思います。
 同時に、ページの長さと幅を考えたデザインをすることも大事なポイントに
なりま す。640×480ピクセルが解像度の低いスクリーンの標準的なサイズで
すが、ページ幅がそれを超えた場合には、ユーザーは少し負担のかかる横ス
クロールをしなければなりません。 もちろん、横スクロールになっても表現
したいデザインがある場合には構いませんが、無闇にユーザーの負担となる
横スクロールのページにしてしまうのは好ましくありません。
 長さについては、当然縦スクロールは出てくると思いますが、ページの長さ
が、たとえばA4サイズで印刷したとき20枚分にもなるというのでは、ユーザー
もしんどい思いをします。A4で印刷したとしたら5枚ぐらいになるのが適当で
しょう。ページの長さには基準はありませんが、ページのデザインを決めると
きには、そういったことも考えることが必要です。

 構造、インターフェイスの両観点からページをデザインする
 ページを構成している要素には、文字、イメージ、写真といったたくさんの要素が
ありますが、ここでは文字情報を例にとって説明していきます。
 先ほど、ユーザー中心の視点でデザインを決めることが大事なポイントになると申
し上げましたが、そのときに評価の基準となるのが「構造の観点」と「インタフェイ
スの観点」です。文字情報の場合には、タイトルの長さ、見出し、リストの階層とい
ったものが、構造の観点から評価の基準になります。あまりに長い見出しは見にくい
ものですし、ひとつの段落が長いものも好ましくありません。また、ひとつのページ
のなかにいろいろな要素を盛り込みすぎた、情報の多すぎるものも見にくいものにな
ります。
 インターフェイスの観点からは、明瞭性、一貫性、ユーザーの期待との合致
性といったものが評価の基準になります。たとえば、文字情報の配置や色、
コントラストを出 して見やすくなっているかどうかを見ていきます。黒地に
白文字でも画面上では十分 なコントラスト効果がありますが、それでは印刷
をした場合に真っ白になってしまいます。あるいは、ユーザーは自分の知り
たいことが書いてあること、自分が理解できる言葉で書いてあることを期待
してページを見ますから、それに応えるようにする。想定するユーザーが理
解する用語を使って、ユーザーの期待と合致するようなものにしていくこと
が、インターフェイスの観点での大事なポイントです。

 三つのセルフチェックをし、みんなで合評させる
 これまでデザイン、設計について申し上げてきましたが、デザインと言えば、
デザ イナーという特別な専門家のやるものであって、私たちにはあまり関係
ないもの、と思いがちです。しかし「Webページを作ろうとしたとき、すなわ
ち情報提供者になろうとしたときから、あなたは情報デザイナーなのです。
そして情報デザイナーであるあなたは、これまでお話をしてきたようなデザ
インのスタンダードを知った上で、自分のアイデアを活かしていくべきなの
です」ということを生徒たちには認識してほしいと思います。
 授業では、Webページビルダーなりテキストエディタを使ってWebページを作
成した後、それを用意した3種類のチェックシートを使ってセルフチェックを
します。ひとつめは、教科書の135頁にある「HTML文書制作におけるチェック
リスト」です。これは HTML文書としての構造的な視点からのセルフチェック
シートです。二つめは、教科書の143頁にある「インターフェイスデザインチェッ
クリスト」。これはインターフェイス のデザインという視点からのセルフチェッ
クリストになります。三つめは、教科書の145頁にある「Webページの自己評価
チェックリスト」です。これは内容的な視点から 見たセルフチェックリスト
になります。この三つは、Webページを設計するに当たっての、Webページデザ
インのスタンダードを定義したものになっています。
  
セルフチェックの後は、クラスのなかで発表し、評価をし合います。この
「みんなで合評する」ということが、通常のWeb制作で欠けている点だと思います。
 たとえば、ここに学生が自分のことを紹介したWebページがあります。トッ
プページには、「人生」「食生活」「生きがい」「好きなこと」「夢」という
ようなメニュー項目が並んでいます。そのなかの「夢」をクリックすると、
今見ていただいている自分の夢について語ったページになります。そのページ
を見て、みんなで合評をするわけです。「頑張って背景画像を作ったみたいだ
けど、ちょっと邪魔じゃないか」 「なんでこんなところに文字があるんだ」
というふうに、みんながチャチャを入れ、 批判をします。次に「人生」をク
リックすると、「夢」のところとは違う背景画像を使っています。これでは
「人生」と「夢」が同じページのグループだとは、とても思えません。そこ
でまわりから、「一貫性がない」という批判が出てきます。
 こういうふうにして、学生たちに査読をさせ、編集をさせているわけです。
教室で 一旦経験すれば、今度自分でWebページを作るとき、あるいは会社、職
場でWebページを作るときに、必ず役に立ってくれるのではないかと思います。
 ただし、今ここで評価しているのは、Webページの情報提供力といえるもの
で、デザイン的なアイデアや創造力ではありません。


スタンダードレベルの力の習得が、Webの世界をより広げる

 先ほども言いましたように、Webページ制作の演習は、企画する力、調査する力等
々、非常に広い範囲の演習を含みます。ですから、Webページの制作は統合的な力を
付けるよい素材だと言ってもいいと思います。
 特に情報リテラシー、ネットワークリテラシーという観点では、設計する力、
評価する力の育成が重要です。他の科目では、企画・調査に重点があり、Web
ページは作ってお終いということもあります。情報リテラシーという立場では、
デザインを設計し、それを評価することを重要視して、私たちは授業を実施し
ていきたいと思っています。
 駆け足の説明になってしまいましたが、今日申し上げたようなことは、実は教えな
くても自然に身に付くものなのかもしれません。情報化社会、ネットワーク化社会の
なかでパソコンを持つ家庭が増え、Webビルダーさえあれば、すぐにでもWebページを
作ることができる環境になっています。公開も簡単になっています。誰でもが作れる
環境になっているわけですが、だからこそ、私はそこに訓練や教育が絶対に必要だと
思うのです。
 絵を描くことは誰にでもできます。ですが、創造力があるかないかの前に、
絵を描くための基本図法を知っていれば、スタンダードレベルの絵を描くこと
ができます。Webページもよく似ていて、誰でも作ることができます。だけれ
ども、あるスタンダードのものを作るには、図法に相当する技法を知っている
ことが必要になります。

質疑応答

参加者 私自身は、数年前からLinuxを使っており、オープンソースの良さを十分
にわかっているつもりです。それで、高校で教育用に使う環境は、
クライアントまで、オープンソースのものがよいと思っているのですが、
まわりの人には、オープンソースのよさが、なかなか理解してもらえません。
「そんないいものなら、もっと前から注目されたはずだ」と言われたことも
あります。オープンソースの良さを伝える、ちょっしたアイデア、知恵を教えてい
ただけないでしょうか。吉田先生が車の運転に例えておられようなものがあれば、
お聞きしたいのです。

吉田  オープンソースの環境が、もっと前から注目されなかった理由は、
インターネット環境が日常的になる前は、パソコンというのは、他の家
電製品と同じだったからです。古くなって使えなくなるまで、その環境を
使い続けました。たとえば、学校買ったパソコンは、5年も10年も、
パソコン付属のアプリケーションを使い続けていたはずです。そういう時代は、
アプリケーションはオープンソースでなくても、誰もそれほど困らなかったのです。

でも、インターネットが発達して、外部とデータをやりとりするようになると、
5
年、10年前のアプリケーションでは、外部から入ってくるデータが見れないよう
になってしまいます。商用のソフトウェアは、新しいものを買ってもらわないと
商売にならないために、どんどんと新しいバージョンを出してきますから。ビジネス
分野ではそれにお金を使っているんですが、でも学校現場の多くは、それに追従する
お金がないから、取り残されるわけです。そういう時代だから、いま、オープンソー
スのよさが注目され始めたのだと思います。特に学校関係で。

オープンソースというものが理解しにくいという人のために、私たちは手作りのぬい
ぐるみを使って説明をするようにしています。これはフェルトで作った人形ですが、
それには手作りの服を着せてもいいですし、リカちゃん人形の服も着せることもでき
ます。そして、この手作りのぬいぐるみ本体をLinuxUNIX系のオープンソースのOS
とみなし、手作りの服を型紙が公開されているアプリケーションをオープンソースの
アプリケーション、そして、リカちゃん人形の服のような既製服を商用アプリケー
ションと置き換えて説明をしていくわけです。

お金があったり、最先端を追うのが好きな人は、リカちゃん人形の本体を買い、リカ
ちゃんの服を買い、着せ替え遊びをすればいい。しかし、リカちゃん人形が高くて買
えなかったり、着せ替えの服を買わせるためにリカちゃんの体系がどんどん様変わり
する、いわゆるバージョンアップのたびにお金を取られるから、リカちゃんはもうイ
ヤだという人もいます。そういった人は、手作りの人形と手作りの服を使えばいい。
そういうふうに説明することで、オープンソースの存在意味を理解してもらっている
わけです。

有賀 事前にいただきました、「大学に入学してくる学生に最低限期待するネット
ワーク等に関する知識等」というご質問にお答えします。
現在のところ、情報化はまだこれからということで、大学ではネットワークに関する
知識を要求してはいません。何も持たなくて結構です。
今は、これから高校生たちがやっていこうという授業を、大学で行なっているわけで
す。そして、実際に高校でこのような授業が行なわれるようになれば、大学ではまた
違うことをやっていく。吉田先生が先ほど、ルールは中学校、高校で教え、大学では
それを使って経験を積んでいくという話をしたと思いますが、ご質問に端的に答えれ
ば、大学ではネットワーク等に関する基本的な知識を特に期待していません。

次の「大学として入学した学生に指導したい内容は?」というご質問については、講
演のなかで答えてしまっているのかもしれませんが、車の運転に例えれば、交通ルー
ルとスキルはわかっている。では、それを自分が選択した専攻のなかでどう使うの
か。そのことを今やっている段階です。1年生、2年生のときに情報の基礎的な教育を
用意し、知の技法を教える。その技法を使って何をするかは、これから各大学の教官
に試されてくる点だと思います。

「生徒が喜ぶ授業内容」という質問がありましたが、逆に皆さんから、講演のなかで
触れた演習についてのご意見、感想をお聞かせいただきたいと思います。これでは生
徒はついてこないとか、こうしたほうが面白いということがあれば、聞かせていただ
きたいと思います。
今のところ、チェックリストにチェックをしたり、書き込んだりすることは、学生た
ちは喜んでやっています。そのなかのいくつかの演習をご紹介したわけですが、どう
でしょうか。

参加者 私の学校でもHPを作らなければならない感じになっていますので、先ほどの
チェックシートをぜひ使わせていただこうと思っています。もちろん授業にも使わせ
ていただこうと思いますが、ただ、授業時間が50分しかないものですから、何とか
50
分以内にまとめる方向で考えていきたいと思っています。
実は、私の学校ではインターネットをまともに使っている先生が10人程度しかおりま
せん。ですから、インターネットにつなぐ必要性や、インターネットを使って教育を
する必要性が、他の先生方になかなか理解してもらえないのです。みんながインター
ネットを使うようになれば、いろいろと面白い提案が出てくるのでしょうが、まず
「しよう」と思ってくれないわけです。私たちがいくら面白いぞ、有用だぞと言って
も、理解してもらえない。みんなそこで悩んでいると思います。何かつける薬はない
ものでしょうか。
両先生も、初期の頃は同じような思いを持たれたのではないかと思います。こうすれ
ば他の先生方にわかってもらえたという経験があれば、ご披露していただければあり
がたいと思います。

有賀 逆にお訊きしたいのですが、ここにいらっしゃる先生方もすごくお忙しいと
思います。そのなかで指導要領も変わるし、今までの蓄積がそのまま使えない。忙し
いなかで今までやってきたスタイルを変えることがたいへんなのか、それとも必要な
いと思われているのでしょうか。どちらでしょう。

参加者 恥ずかしい話ですが、変える必要があるとは思っていない先生が多いように
思います。残念ながら、大抵の先生は指導要領をほとんど理解されていませんし、指
導要領を読んでいる先生もごく少数ですから。
指折り数えて、あと数年。私たちはすごい危機感を持っているのですが、どうすれば
そういう人たちにわかってもらえるのか。たしかに忙しいこともありますが、環境も
整っていなければ、パソコンを使っていてもほとんどワープロばかり。ですから、
DOS
パソコンで十分というのが現状なのです。あえてwindowsLinuxを使わなければ
ならない状況が何もありませんから、どうしたらいいんだろうと困っているのです。

吉田 参考にならないかもしれませんが、80年代、私がいた会社では、若い人たち
から使っていっていました。課長が電子メールをほとんど読まない状況のなか、私た
ち若手は電子メールで情報交換をしていました。たとえば、宴会のお知らせもメール
で流して、その出欠もメーリングリストで流していたり。ですから、上司から「オレ
は知らなかった。誘われていない!」と言われたことも本当にありました。
その状況とは違うかもしれませんが、コミュニケーションツールとして市民権を得る
までがたいへんで、一旦市民権を得てしまえば、課長も部長も「電子メールを使わな
ければ仕事にならない」という意識になっていったように思います。やはりスタイル
を変えるには、あるきっかけが必要だと思いますし、仲間外れにされることを嫌う気
持ちの若い上司は、どんどん電子メールに参入してきたということがありました。た
だ、それは少しずつボトムアップでつながっていった、穏やかな時代の話ですが。
学校についても、一旦壁の外の世界とやり取りを始めた先生はどんどん新しい世界が
見えてきて、「これではダメだ」ということに早く気が付くのですが、そうじゃない
先生は壁のなかに入ったままという。その壁をいかに開けるかということなんです
が。

有賀 ネットワークを使うということに限って言えば、高校の場では情報科という
科目のなかでやる場合と、個別教科のなかでやる場合があります。たしかに個別教科
の場合には難しいかと思いますが、情報科の場合にも難しいのでしょうか。
参加者 双方から出ているのです。

有賀 ただ、情報科について言えば、きっかけ云々ではなく、もう外から押し寄せ
てきているわけです。そのなかで、生徒がネットワーク上での被害者になったり加害
者になったりする。その危険から、学生たち、生徒たちを守らなければいけない、と
強く思うわけです。
環境の点はどうなのでしょうか。小学校の先生から、クラスの半分しかパソコンが触
れない現状で本当に苦労する、やりにくいという話をお聞きしたのですが、私自身
は、たとえば5年後、環境がもっと整ってくれば違ってくるのかなと思ったりしてい
るのです。その点はどうなんでしょうか。

参加者 環境については、31日に府の方針が発表されて、少しは改善されるようで
すが、大学や会社と較べれば10年以上遅れていますよね。当然、ひとり1台のパソコ
ンを持つべきですし、校内のネットワークもできているべきだと思うのですが、それ
にはほど遠いのが現状です。
もうひとつは、若い先生がほとんどいないという環境も大きく響いていると思います。

参加者 私は国語を担当しているのですが、国語表現の時間に、先ほどのチェックリ
ストを使いたいと思っています。HTML文書はムリですけれども、生徒たちにHPのデザ
インをぜひともやらせたいと思っています。というのは、国語表現の時間は、結構使
い方が自由なのです。ですから私の場合、遠足に行く前には必ず国語表現の時間を使
って、「まず枠を作る」「表題を入れる」「名前を作る」「行きたいところを三つ書
く」「その場合には食べるところと観るところを必ず入れる」「地図は1ヶ所絶対に
入れる」という表を生徒たちに作らせているのです。そして、遠足から帰ってきたら
みんなからコメントをもらう。そういったものを国語表現の時間で楽しく作っていま
す。
この前は、同じような形で、3年生に「阪神大震災の昨日、今日、明日」というもの
を作ってもらいました。震災を経験する前、震災を経験したとき、震災体験が今後ど
うなっていくのか、必ずその3要素を入れて、写真は絶対に2枚以上入れること等々、
いろいろと条件を付けたものをやらせているのですが、先生のお話は非常に参考にな
りました。あのチェックリストに沿って、これからもそういったものを作らせていき
たいと思います。

ところで、そういったことが情報の科目とタイアップしていないことに、私自身、国
語の教師として問題を感じています。どういうふうに発信し、どのように情報を集め
るかということが本質であると思うのに、情報と言えば、どうしても理数系からの攻
め方になっていることに心配しているわけです。今の情報という名前では、本来のコ
ンセプトを活かすことができないと思います。もし変えるとすれば、先生方はどのよ
うな名前にされるでしょうか。

吉田 情報科目には、今先生が言われた遠足のようなものは入れる必要はないと思
います。これは、国語の枠で書かせるものだと思います。高校生が国語の枠で書いた
作文というのは、たいていの場合、先生ひとりに向けたものだと思うのです。
それではせっかく書く生徒が可哀相だと思いますので、読み手はたくさんいるという
ことで、国語の時間にWeb発信をするようにしてはどうかと思います。高校生が何を考
え、遠足で何を学んだかということをWebで発信し、みんなに読んでもらうわけです。
高校生以外の人たちが読者になることで、高校生が自分自身を見つめなおす機会が持
てると思うのです。ですから私自身はこれは情報の内容ではなく、国語教育にWeb
利用するというパターンだと思いましたが。

有賀 たしかに、国語の授業の枠でコンピュータ教室を確保するのは絶対にムリが
あります。

できれば、国語の科目のなかで、企画、調査、設計ぐらいまでをやり、その
あとを情報の科目のある部分でやるというタイアップができれば一番いいと思いま
す。企画力や調査力は社会の科目でもできるし、数学でも何でもできますから。

参加者 これは従来の国語という科目では扱えないとして、教科の名前として、
何かよい名前はないでしょうか。

吉田 「コミュニケーション」はポイントの高い言葉ですよね。

有賀 でも、教科にはカタカナはありませんよね。

参加者 あります。英語に「オーラル」があります。

吉田 「情報発信」。

有賀 グッと狭まってしまいますね。

参加者 実は大阪府の個人情報保護条例で、学校の生徒が直接外へつなぐことはでき
ないのです。

有賀 これは規則に引っかかるのかどうかをお訊きしたいのですが、たとえば先ほ
どの国語の作文を、個人の名前を付けずに発信する場合もダメなのですか。

参加者 学校のHPとして出すのは構いませんが、一部例外はあるものの、生徒が入っ
ているLAN教室は外へつなぐことができない状況なのです。ただ、31日に発表され
たものでは、いけそうな感じにも受け取れるのですが。

参加者 キッチリとは決まっていませんが、その方向に動いていることはたしかです。

有賀 たとえば授業で作ったページを、学校のHPからリンクさせて見せることは可
能なのですね。もちろん名前は伏せて。
今思ったのですが、問題は発信することよりも、Webページを直接見ることができな
いわけですね。検索エンジン云々も絵に描いたモチで、決められたWebページをごっ
そりコピーして、それだけが見ることができるという。

参加者 そうです。

有賀 それではなかなかいい名前は出ませんね。

参加者 今、盲学校では生徒はひとり1台、自分専用のコンピュータを持って、朝か
ら晩までコンピュータの前にいます。試験のときには、試験問題をメールで送り、目
がまったく見えない生徒は音声化をして、作文をして時間内に提出するということを
しています。ただそれは一部分で、同じ屋根の下であっても、コンピュータは遠い世
界のこと、みんなで遊びましょうということもしているわけです。

先ほど、学校にはUNIXがいいという話をされましたが、たとえばWindows版には音声
化ソフトがあります。つまり、ベースのマーケットが大きければ、多様なソフトが提
供されているわけです。もうひとつは、先生が「パソコンはいいよ」と言うから、生
徒たちが家でパソコンを買いました。それには必ずWindowsが付いてくるわけです。
何も知らないお母さんが、たとえば上新電機に「Linuxのパソコンをください」と言
えば、「はあ?」と言われるだろうと思います。
それはそれとして、私が今からUNIXを勉強しようとすれば、一体どのくらいの時間が
かかるものなのでしょうか。ご自身の経験から、こういう本を読んだり、こういうこ
とをすれば、学校で必要なことは大体できるようになるというものがあれば、教えて
いただきたいのです。

もう一点は、今日のお話もさることながら、おそらく高校ではキーボードトレーニン
グをバッチリやらなければならないと思います。中学校でもコンピュータを触ります
から、ある程度はできるかと思いますが、逆にキーボードアレルギーになって高校に
入ってくる人もいるかもしれません。
そこでお訊きしたいのですが、2単位35週を前提に考えたときに、今日のお話を全部
することはムリだろうと思います。我々教師はこの本を読んで勉強することは大事な
のですが、2単位35週のなかでは、ネットワーク関連でも最大限取れて20時間だろう
と思います。ですから、高校生にここだけは絶対にやってほしいもの、これをやらな
ければ大学には入れないよというものがありましたら、教えてください。

有賀 二つめの質問からお答えします。ここだけはということでは、「活用編」と
それに付随する最低限の知識のところだと思います。
自分のパソコンに自分でLinuxを入れて、Linux上でエディターが使えたり、メールを
読んだり、またはWebページも作れるようになるといった個人ユースなのですか。そ
れともサーバーとして立ち上げるのが目的なのですか。

参加者 今の話についていけるぐらいまでです。

有賀 それでしたら、18時間で延べ5日間ぐらいだと思います。ですから、半日
だと2週間ほどではないでしょうか。月曜日から始めて土曜日辺りには何とか使える
環境が整っているだろうと思います。

吉田 私の教えているノートルダムでは、学生はWindowsと同じくらいの手間で
UNIX
を使えるになっています。インストールが難しいだけで……

有賀   今のご質問は、全然知らないところから始まって、とりあえず使えるよ
うになるまでのことで、ハードウエアの細かいところは知らなくてもいいよう
に思います。「ここはこうしろ」と書いてあるものを読んで、 「どうもそう
らしい。正しそうだ」とある程度の自信を持つまでの時間ですから、それは1
週間程度だと思うのですが。

吉田 よくわかりません。私はもっとかかりました。すでにUNIXが使える環境があ
れば、すぐに使えるようになると思うのですが、私の場合、インストールに関しては
ハードウエアの知識がなかったものですから、かなり苦しみました。

有賀 今のLinuxのパッケージは、わりあいスムーズにインストールできるように
なっていますからね。ですから、1日目で何となくできて、あとは必要なソフトをど
こかから取り寄せて個人環境を整えるという。
ただ、最初にLinux用のハードディスク領域を用意する作業がありますから、
それはちょっと怖いかも。自信を持てるまでは2日くらいはかか るかもしれません。
(終)

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<関係著書>

有賀妙子,吉田智子:学校で教わっていない人のためのインターネット講座
〜ネットワークリテラシーを身につける〜,北大路書房 (1999.9).
サポートページが http://www.tomo.gr.jp/Internet/

"UNIX USER
"(ソフトバンク発行)の「よしだともこのルート訪問記」
19952月号より連載中. これを書籍化したものが「よしだともこのルート
訪問記 書籍版」ソフトバンク (1999.9).
サポートページが http://www.tomo.gr.jp/root/book/

<関係論文>

有賀妙子,吉田智子:"ネットワークリテラシー教育のシラバスと教材研究"
情報処理学会 コンピュータと教育研究会 50-4 (1998.11).

有賀妙子,吉田智子:"ネットワークリテラシー教育のシラバスと教材"
日本教育工学会  15回全国大会 2aC-08 (1999.10).

有賀妙子,吉田智子:"Webページ制作演習におけるページデザイン技法の学習"
情報処理学会 60回全国大会講演予稿集 3L-10 (2000.3).

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